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~ 審判コラム ~
私は、10年前の2013年、秋田県からの派遣審判委員として第95回全国高等学校野球選手権記念大会、
いわゆる夏の甲子園大会に派遣されました。
出発が近づきましたが、秋田は梅雨明けが遅れ、涼しい日が続いていました。
大阪は連日の真夏日が続いており、暑さ対策のため7月末というのに冬用のフリースを着て、
その上に上下ウィンドブレーカーを着こんでジョギングをしていました。
車を運転している人たちからは不審者に見えたことでしょう。
しかし、顔には涼しい風が当たり思ったよりは効果がなかったような気がします。
大阪入りして迎えた開会式当日、朝からじりじりする日差しを浴び、35度に迫る暑さのなか、
踵と踵をくっつけて45度に開き、両手の中指はスラックスの縫い目にくっつけた姿勢を45分間保ちました。
緊張というよりはあこがれの甲子園で開会式に立っている自分が信じられませんでした。
開会式は予定通り45分で終了しましたが、目の前でプラカードを持った女子生徒が数人倒れた姿をみて、
甲子園の過酷な状況を思い知りました。
こうして、大会が始まりましたが、審判委員は大会役員です。
ただ、審判をするだけでなく大会の運営についていろいろな仕事があります。
ボール管理とボール磨き、両チームのボールパーソン等に対して注意事項の伝達、
球場周辺の違法駐車の見回りなど、とても審判とは関係のない仕事を、大会初日から第7日目まで体験してきました。
審判は大会2日目の第2試合、4日目の第4試合、7日目の第2試合を担当してきました。
4日目と7日目の時は、どちらも4万8千人の超満員の中に立たせていただきました。
フィールドの中では、声には自信がありましたが、まったく通じませんでした。
しかも、ヒットになると、つんざくような歓声が沸き起こります。
そんな中でも、きちんと集中し冷静な対応ができたと思っています。
最後の担当試合が終わり、校歌斉唱の時です。
ホームベース上からスコアボードを見ていました。
緊張感から解き放たれた安堵感と、もうこの場に立てないという寂しさが交錯し、目が潤んでしまいました。
テレビ中継がありますので、涙は必死に我慢しました。
あとで映像を確認したら、自分でも信じられないくらいのすごい汗をかいていて、涙はごまかせました。
その試合後、東京と佐賀から派遣された方が一緒に昼ご飯を食べようと待っていてくれました。
8人の派遣でしたが、8人一緒の部屋で寝て、朝と夜ご飯を一緒に食べる生活を10日間通ごしました。
とても、仲良くさせていただき、2年後に甲子園で同窓会を行いました。
この大会に参加して、高校野球連盟では教育の一環の高校野球を目指していることを身に染みて感じました。
「相手をリスペクトする」。
これが全ての基本です。
相手チームがいるから試合ができる。
保護者、学校、大会運営の人等、高校野球に関わるすべての人に感謝して試合に臨むという基本姿勢があれば
自分たちだけを盛り上げるようなパフォーマンスはできないはずであり、
打たれた投手のくやしい気持ちを考えるとガッツポーズはできないはずという基本姿勢です。
時代は変革し続けます。
しかし、「相手をリスペクトする」という基本姿勢だけは継続するべきだと思います。
今年も夏がやってきました。どんなドラマが生まれるのか楽しみです。
選手たちの熱く精一杯のプレーを期待します。
私は現場に立つことはできなくなりましたが、後輩の優れた審判達が集中して最高のジャッジを行えるよう、
日々鍛錬に努めています。
この、緊張感を選手と同じ目線で味わえるのは審判だけです。
最高の舞台を目指す選手のそばでジャッジしてみませんか。
チャレンジをお待ちしております。